文科省前川前次官の告発.。 論点その1: 「忖度」の構造。

 ここ数年体調不全でこのブログも休止していたが、ようやく再開が叶う。
そして目の前に大変な材料が転がってきた。
・・・前川前文科次官の突然の発言である。

 ついこないだまで森友事件があったが、前川「事件」は今の政権の「構造」、ひいてはこの国の問題というか特徴というか、そうしたものも含め、切り口が大変多いと感じる。

 ある物事について、「本当のこと」に迫るのは、多岐に渡る情報を収集し、それを分析した上で一つの「仮説」を立て、更にまた情報を収集し、その仮説に修正を加える、という手続きの連続が必要。その先に「本当のこと」が見えてくる。そして、それを「位置づける」という作業を終えると、この件は一件落着、となる。

 さてこの前川事件、まだまだ情報は不十分だしこの先また新たなものも出てくるであろうが、敢えて言うと、既にこの時点で「仮説」は比較的立て易いと考えるので、その線でこの議論の材料に富んだ「事件」を論じてみる。

 まず大前提として、前川氏(以下M氏とする)が記者会見やマスコミでしゃべっていることはほぼ100%本当のことである、という仮説を置く。ま、62歳だそうだから多少の記憶違いや勘違いはあろう。だがそれは枝葉末節の類と言ってよいので拘泥しない。

 話は突然変わるが、ヤクザというか暴力団というか、そういった組織を動かしている一つの大きな特徴は「忖度」で成り立っている、ということだ。事柄を単純化してみよう。
Aという組織の親分は、このところ自分の縄張り近くで伸してきたBという組織が気に入らない。あれこれの末にBの親分を抹殺してしまいたい、という考えに至る。彼は、絶対にBの親分を殺して来い、とは言わないであろう。ここは日本人であればすぐ納得できる筈。ではどうするか?幹部会でも非公式な食事会でもいいが、雑談風に「最近Bのあれは生意気だな。ほんと目障りだ」と言う。
同席した幹部は、親分はBの親分を殺れ、と言いたいわけだな、と受け取り、懲役に行く頃合の組員に言う。「おい、親分がBのやつが目障りだと言うんだよな」と。
聞いた組員は、そうか、であればおれが殺ってやる。ムショに行っても当然面倒は見てもらえるだろうし、シャバに戻れば、そのことで幹部昇格は間違いない、と考えてBの親分を殺る。
この場合、Aの親分もその下の幹部も、殺人教唆で罪を問えるかというと問えないわけだ。

 翻ってこの国である。Aという首相が、毎日行うらしい官房正副長官とのミーティング、或いは首相補佐官とのミーティング、ま、なんでもいいが、例の加計の獣医学部新設の件、タイミングを見計らって「ぼくはあそこの社長とは30年来の付き合いでね、ま、知ってると思うけど。でこないだもメシ食ったんだけど、今回の特区での獣医学部新設、是非実現して、ささやかながらこの国に貢献したい、とか言ってたんだよね」としゃべる。あくまでも雑談風に、というのがキモである。
 ・・・聞いたほうはどうするか? 何もしない、動かない、という選択肢がないことは明白であろう。でここからの動き方は、知恵と経験でパターンが異なってくる。最も知恵のないのは、直接の当事者を呼んで、首相がこう言った、なんとかしろ、わかったな、もちろんこの件は絶対口外するなよ、と言う。ついでに、お前この件うまくやったら首相に言って確実に昇進させてもらうから、とかなんとか。最も巧妙なのは、そのへんの勘の鋭くかつ上昇志向の強いのをつかまえて、首相の意向が背後にあることをなんとなく、だが確実に「匂わせ」る。
ま、この二つの行動の間には微妙な差がある幾つかのパターンがあるであろう。
そして共通しているのは、首相の発言を受け止めて自分の職の範囲内で何か動けは間違いなく評価されるであろう、逆にここで動かない、もしくはドジ丸出しの動き方をすれば、「彼は何もわかっとらん」ということになり、その後自分の昇進はほぼ絶望となるであろう、という風に頭が回っていく、という点である。

・・・これが「忖度」の具体的な姿である。
何故こうしたことが、官であれ民であれごく普通に通用するか?と言えば、それは、同じ日本人同士で同じ日本語で物事を処理して行くからである。
とにかくなるべく争いごと、面倒なことを起こさないで一つのことを進めていくためにはどうするか?というところから自然に出てくる一つの行動様式と言ってよい。「空気を読む」とか「根回し」とか、みな同じ範疇に属する。
日本人は、数人、もしくはせいぜい10数人の組織だと、昼間でも夜の酒席でも結構カンカンガクガクの議論をする。だがそれ以上の大きな組織が関わる話になると、その場で議論をするなどという「ダサい」ことは一切忌避する。ま、大きな組織の場合は、まず数人の小さな単位で議論が行われ、上に行くときには、そういうことならしょうがないな、という形で意思統一がなされる、というわけである。

 今回の前川事件でも、M氏の発言から、やはりこの「忖度」の構図が明確に垣間見える。実際、組織で働く人たちは、この件での様々な報道に接して、ほぼ全員が「そういうことだったんだろうな」と推察している筈である。
 
 さて、そこで今回M氏は、現役の時にはそうした忖度の構造の中で行動していたわけだが故あって現役を退いた今、その忖度の事実を極力具体的に公表し、忖度させた大元を炙りだそうと動き出した、というわけである。

 ここからが「切り口」のその2である。